リデル・ハート『戦略論』の翻訳いじり(続き)

 引き続き、リデル・ハート『戦略論』の訳本(1971年刊)を回顧して嫌味を言っています。

[上巻102ページ]

【訳文】(パラグラフ途中)しかし、フランスの戦力はその国内の地方的災害によって危機に陥ったためフランスは、今や不活発であるだけでなく疲れ切ったオーストリアとの間に間もなく和議を結んだ。その結果、イギリスを除き、七年戦争へ参加した諸国はすべて疲弊し、戦争による過度の流血にその後も苦悩を続けた。(パラグラフ終わり)

【原文】... but the former's strength was undermined by her colonial disasters, and, with Austria now not only inert but weary, peace was soon arranged---leaving all the warring countries exhausted, and none, except England, better off for the seven years' exuberant bloodshed.

【コメント】ここまでどちらかといえばこの章の訳者のことは褒めてきたのに、ここへきて短い一節に三カ所も躓いています。フランスのcolonial disastersが「国内の地方的災害」というのはほとんど目を疑いました。もちろん、プラッシーの戦いやカナダの喪失など「植民地の大損失」です。フランスがオーストリア「との間に」和議を結ぶというのも目を疑いました。オーストリアは同盟国ですよ。最後のnone better offも訳せていません。どうやらこの人はどうやら軍事にはそこそこ強いが、国際政治にはからきし弱いようです。

【改訳案】しかしフランスの戦力はその植民地において被った大損失によって損なわれており、オーストリアもいつものように不活発であるだけでなく今や疲れ切っていたから、ほどなく和議は結ばれた。その結果、すべての交戦国は疲弊し、イギリス一国を例外として、七年にもわたって華々しく流血を重ねた結果いささかでも境遇を改善し得た国はひとつとしてなかった。