リデル・ハート『戦略論』の翻訳いじり(続き)

 引き続き、リデル・ハート『戦略論』の訳本(1971年刊)を回顧して嫌味を言っています。

[上巻105ページ]

【訳文】(パラグラフ途中)連合側侵略軍の戦争遂行は目的及び技巧において方向性を欠如したものではあったが、フランスの危険状態はさらに増大する一方であった。しかし、その非常な危険状態も遂に一七九四年フランスに恵まれた幸運によって劇的に転換し、連合国の侵略の怒濤は押し返されるに至った。(パラグラフ続く)

【原文】... Although the conduct of the war by the invaders lacked purposeful and skilful direction, the situation of the French grew more and more precarious until fortune changed dramatically in 1794 and the tide of invasion flowed back. ...

【コメント】昨日の箇所の続きです。「幸運」が問題です。"fortune changed dramatically"のfortuneはいわゆる"the fortune of war"で、まぐれ当たりとかビギナーズ・ラックとかいう意味の「幸運」ではないんですね。「怒濤」も問題です。"tide"とか"flow"とかは潮の満ち引きで、波とは何の関係もないですね。

【改訳案】侵攻軍側の戦争の進め方には目的が明確で熟練した指導が欠けていたが、フランス軍の状態は日を追ってますます危ういものとなっていった。ところが一七九四年に入って劇的な形勢逆転が起こり、侵攻軍は潮が引くように押し返されていった。