リデル・ハート『戦略論』の翻訳いじり(続き)

 引き続き、リデル・ハート『戦略論』の訳本(1971年刊)を回顧して嫌味を言っています。

  • 110〜111ページ。「彼はポー河の南岸に沿って東進し、ピアセンツァに到達した後、予想されるオーストリア側のすべての抵抗線(複)を覆した」。この訳本の特徴はときどき名詞のあとにこの「(複)」をくっつけて単数複数を示すことです。しかし、「(複)」がついていない名詞はすべて単数か、というと全くそんなことはなく、つけるかつけないかはかなり恣意的です。この場合、「すべての抵抗線」なら「(複)」は余計だと思うんですが。原文は"he marched east instead, along the sauth bank of the Po, and so, on reaching Piacenza, he had turned all the Austrian's possible lines of resistance." 「覆した」と訳されたこの"had turned"はつい前頁に出てきた「回りこんで後ろへ出る」なんですが今度は訳せなかったわけです。過去完了時制もぜんぜん読めていない。改訳案は「かれは南へではなく、ポー河の南岸沿いに東へ進み、そうすることで、ピアチェンツァに到着したときには、オーストリア側のすべてのありうべき抵抗線を迂回しおおせてしまっていた」。