リデル・ハート『戦略論』の翻訳いじり(続き)

 引き続き、リデル・ハート『戦略論』の訳本(1971年刊)を回顧して嫌味を言っています。

[上巻114ページ]

【訳文】(パラグラフ始まり)こうして、彼は、彼のいわゆる「自然の陣地」にある敵と遭遇する前進を行うことなく、アレッサンドリアの西側に面して、オーストリア軍の背後を横切る「自然の陣地」を確保した。(パラグラフ続く)

【原文】... Thus, instead of advancing to meet the enemy in what he termed 'their natural position', facing west of Alessandria, he gained a 'natural position' across the Austrians'rear...

【コメント】1800年、マレンゴーの戦い。敵味方の取り違えです。サンベルナール峠からピエモンテ北部に降り立ったナポレオンは、南のトリノへではなく、東のミラノに向かった、という箇所です。そうであれば、アレッサンドリアトリノの東、ミラノの南東にあるのですから、「アレッサンドリアの西側に面して」いるのは「彼(ナポレオン)」ではあり得ません。そこを「自然の陣地」にしているのはナポレオンではなくオーストリア軍です。

【改訳案】こうしてかれは、かれのいうところの「当然の位置」を占めた敵軍―つまりアレッサンドリアで西向きに布陣していたのだが―に対して、これと行き会うために前進するのでなく、自分の側の「当然の位置」を占めた。つまり、オーストリア軍の後方にまわり、その退路を遮ったのである。