リデル・ハート『戦略論』の翻訳いじり(続き)

 引き続き、リデル・ハート『戦略論』の訳本(1971年刊)を回顧して嫌味を言っています。

  • 115ページ。「そしてこの時点に、ジェノアにあったフランス軍が降伏し、それによってこれまで情報を入れてくれたいわゆる「固定諜者」が居なくなってしまった」。原文は、"And at this juncture Genoa capitulated, thereby removing his 'fixative' agent." なるほどエージェントならスパイだろうというわけですか。改訳案は「そしてまさにこのときジェノヴァフランス軍が降伏し、このことでこれまでナポレオンのためにオーストリア軍をピエモンテにつなぎ止めてくれていた作用因が失われてしまった」。
  • 同。「マレンゴーの戦闘の決着はなかなか着かず、ドゥセの支隊が戦場に駆けつけた時点にさえオーストリア軍は追返されたばかりであった」。原文は、"The battle was long in doubt, and even when Desaix's detachment returned the Austrians were only driven back." "were only driven back"を"just have been driven back"あたりに読み違えたわけですね。改訳案「マレンゴーの戦いはなかなか決着がつかず、ドゥセの分遣隊が戻ってきて加勢した時でさえ、オーストリア軍は押し返されただけで潰乱したわけではなかった」。