リデル・ハート『戦略論』の翻訳いじり(続き)

 引き続き、リデル・ハート『戦略論』の訳本(1971年刊)を回顧して嫌味を言っています。

  • 119ページ。私が気づいた限りでは、このページには変なところが六ヶ所あります。そのうち五カ所は「ロシア軍は雪嵐に痛めつけられはしたが」「ナポレオンは麾下のバタイヨン・カレーを続々と投法へ繰り出して」「この戦闘ではナポレオンの新砲兵戦術が明瞭に示されたが」「(この目的に対して、奇襲及び機動力は手段の地位に落ちる)」「ナポレオンがこの仮説を信じていたことは」ですがいずれもごくお粗末な凡ミスなので検討しません。もう一カ所もお粗末な凡ミスなのは同じですが、下で検討します。

[上巻119ページ]

【訳文】(パラグラフ始まり)ナポレオンは、フリートラントの戦勝の魅力を利用して、ツァーを第四次の対フランス連合体制から離脱するよう唆かすための自己の個性の魅力を強めることができた。しかし、その際彼は、自己の個性の魅力を過度に利用した結果、自らの占めていた有利な地位を冒険に賭け、最終的には彼自身の帝国をも危険にさらすことになった。(パラグラフ続く)

【原文】(後半のみ)But he then risked his advantage, and ultimately his empire, by excess in exploiting it.

【コメント】このあとには、対プロイセン講和の条件がきつすぎたとか、イギリスに対して大陸封鎖をしたとか、スペインとポルトガルに攻め込んだとかが続きます。とすれば最後の"it"が指すものは「自己の個性の魅力」ではないことは明らかですね。

【改訳案】(後半のみ)しかしそのあとで、かれはせっかく勝ち得た有利な地位を危険にさらし、ついにはかれの帝国をも危険にさらすことになったが、それはその有利な地位を利用するにあたって行き過ぎを犯したためであった。

  • 120ページ。第一パラグラフには"it was ... which"の初歩的な読み間違いがあります。