リデル・ハート『戦略論』の翻訳いじり(続き)

 引き続き、リデル・ハート『戦略論』の訳本(1971年刊)を回顧して嫌味を言っています。

 今日から第八章のうち半島戦争の節です。

  • 120〜121ページ。「スペインの、ひいてはイギリスの最大の不運は、新正規軍の編成の企図に一時的に成功したことであった。幸運にも、その新正規軍は撃破されたが、フランス軍が新正規軍を四散させるのと一致して、スペイン側は自らの幸運を拡散したのである。毒は、頭に上らないで再び全身に広がったのである」。皮肉のきいた箇所ですが、第二センテンス後半の原文は、"and as the French dispersed them so, coincidently, did they disperse teir own good fortune." theyは明らかにフランス軍ですね。改訳案は「フランス軍が新正規軍を四散させればそれだけ、同時に自分自信の幸運を消散させていたのである」。最後のセンテンスの原文は、"The poison spread again instead of coming to a head." こういうのは字引の性能の問題なので昔の人を責めてもないものねだりなのですが、"come to a head"は「〈できものが〉化膿して口を開きそうになる(リーダーズ英和辞典)」です。改訳案は「せっかくおできに集まって膿を出しそうになっていた毒素は、再び全身に広がったのである」。