内田百間の岩波文庫

『東京日記他六篇』(1992年7月16日刊)のことです。

 目次は次のようになっています。

  白猫(昭和9年

  長春香(昭和10年

  柳検校の小閑(昭和15年

  青炎抄(昭和12年

  東京日記(昭和13年

  南山寿(昭和14年

  サラサーテの盤(昭和23年)

 すぐに気づくことは、全体は年代順なのに、「柳検校の小閑」だけが、定位置から三つ繰り上がっていることです。

 編集者の意図は明らかで、百間読者ならご存じの通り、その前の「長春香」の関連作品だからですね。

 しかしちょっと待ってもらいたい。岩波文庫の読者って、みんなそんな文学部で勉強するような態度で読む読者ばかりなのかしら。

 「関連作品」といえばもっともらしいが、普通の読者にとってみれば、せっかく秘術を尽くして構成してある「柳検校の小閑」が、ネタバレになっちゃっている、ということですよね。

 そもそも、何で創作ばかり集めてあるこの集に、随筆の「長春香」を入れるのか、「関連作品」だからわざわざ入れたのか。

 いずれにしても、小説をあまり愉しんで読まない人が編集した本のようです。