リデル・ハート『戦略論』の翻訳いじり(続き)

 昔苦しめられた翻訳書を回顧して厭みを言っています。今日は引き続き、リデル・ハート『戦略論』の訳本(1971年刊)です。

[上巻91ページ]

【訳文】(パラグラフ途中)彼(マールバラ)は、足をフランダースに縛りつけられており、兵数において甚だしく劣勢であったが、逆にダニューブ河方面への行動を再び実施して、それまで不利であった戦勢を覆した。そこへユージーヌはライン河方面から自軍を率いて到着し、マールバラ軍と合流した。…(パラグラフ続く)

【原文】... Tied by the leg to Flanders, and heavily outnumbered, he turned the balance by a repetition of the Danube move in reverse---whereby Eugene brought his army from the Rhine to join Marlborough. ...

【コメント】1708年です。「足をフランダースに縛りつけられて」いるのに、どうやって「ダニューブ河方面への行動を再び実施」するのでしょうか。いや、そもそも、マールバラ軍がもう一度フランドルからドナウ川へ行って帰るとしたら、それだけでこの年は暮れてしまうのではないでしょうか。訳者はin reverseが読めなかったわけです。この回の箇所、次回に続きます。

【改訳案】マールバラは足をフランドルに縛りつけられ、数において甚だしく劣勢であったが、先年のドナウ川作戦を反対向きにしてもう一度繰り返すことによって、彼我の力の差を逆転させた。つまり、オイゲンが軍を率いてライン川からはるばるとやってきてフランドルのマールバラに合流したのである。