戦略論自分語り

 そもそも、初めて私が世の中に『戦略論』という本があることを知ったのは、1975年夏のことだと思います。大学の講義で、天下の名著だと聞いたのです。

 私が持っている訳本は、上下二巻本で1971年初版、上巻は第七版、下巻は第六版、いずれの版も1978年に出ていますからその後一年くらいの間に買ったのだと思います。合わせて2600円なので、なかなか手が出ず、ずいぶん思い切って買ったのを覚えています。

 そして思い切って買って読んでみると、これが何を言っているんだかぜんぜんわからない。ところどころでいいことを言っているらしいことはわかるのですが、その中間が朦朧として雲をつかむようでした。

 こういうのは原文を見ればいいんだ、ということはその当時でもわかっていましたから、私はどこかで原本を買い求めました。メンター社のシグネット・クラシックスから1974年9月に第一刷が出た、その第五刷です。この第五刷がいつ出たかは奥付にないのでわかりません。自分がいつどこで買ったのかも記録していません。

 原文を読んでみてわかったのは、なかなか手ごわい、ということです。ひじょうに目の詰んだ叙述であるうえ、読者にかなりの予備知識を要求していて、これは1971年の訳本を手がけたグループの英語力ではカミカゼ特攻で討ち死にしたようなものだな、と思いました。

 奥付に書き込んだメモによると、その後私はこの原書を二回通しで読んでいます。一度目の読了が1986年9月30日、二度目の読了が92年8月6日です。間をおいて二回も読んでいるのは、第一にこの原書がむやみに面白いから、第二になかなか手ごわいからです。

 その間に、訳本の方にはたくさんの不審マークがつきました。実のところ私はこの訳本の方にも愛着があり、こうして今、恨み節半分、懐かしさ半分で、一カ所一カ所検討しては嫌味を言っているわけです。